大正時代創業。こだわりの「きりたんぽ鍋」で秋田の伝統を守り続ける、料亭 濱乃家

「料亭 濱乃家」は1918(大正7)年に創業した。老舗の風格を醸し出している店構えからは、木造商業施設ならではの良さが存分に窺える。同店は、料亭で初めて「きりたんぽ鍋」を出した店であると同時に、一郷土料理を全国的なものに引き上げた立役者のような存在といえる。創業時から変わらぬ味を守り抜くという信念とともに、新しい時代、新しい価値観にも柔軟に対応していこうという「料亭 濱乃家」の社長と女将にお話を伺った。

お話をお伺いした 社長の竹島 知憲さん(右)と 女将の竹島 仁子さん(左)
お話をお伺いした 社長の竹島 知憲さん(右)と 女将の竹島 仁子さん(左)

”初めてきりたんぽ鍋を世に出した料亭”のこだわりの味

――まずは、「料亭 濱乃家」の歴史から聞かせていただけますか?

社長 当店は1918(大正7)年に、本格的な数寄屋建築の料亭として当地で創業しました。一世紀を超える時間のなかで、これまで多くの文化人やその時代を代表するような方々にご来店いただきました。また、当店は“初めてきりたんぽ鍋を世に出した料亭”ですが、当時は“きりたんぽ鍋は家庭料理であって料亭で出すものではない”という意見を方々からいただいたそうです。しかし先代は、四通八達によって首都圏との往来が増えれば、秋田料理の魅力を知っていただくと同時に、興味を持たれる方が増えてくると考え、その結果として“秋田料理を味わえる料亭”として知られるようになりました。

きりたんぽ、野菜、肉、スープ。1つ1つがこだわりの素材
きりたんぽ、野菜、肉、スープ。1つ1つがこだわりの素材

――では、「濱乃家」の「きりたんぽ鍋」の特徴を教えてください。

社長 一般的に、きりたんぽはあきたこまちが用いられることが多いのですが、当店では県内産ササニシキを使っています。ササニシキは病害虫に弱いため今では生産農家が減ってしまっているのですが、市内雄和地区の契約農家にお願いして栽培していただいています。それと当店には、きりたんぽの製造工場があり、そこで一本ずつ丁寧に焼き上げているのですが、そのときに使う串は、木の香りをつけるため炭でできています。鉄製の串なら何度でも使えるのですが、それが炭だと5、6回で焼けてしまいます。手間はかかりますが、創業時の味を守っていくためにも大切なことだと考えています。

女将 きりたんぽと負けず、大切なのがやはりスープです。出汁は比内地鶏のガラを3~4日かけて炊いており、そのあまりに濃厚な色味は味噌ダレと勘違いされる方がいらっしゃるほどです。能代の根深ネギや湯沢の三関せりをはじめ、地産地消も大切にしている要素です。「きりたんぽ鍋」以外では「かやき」も人気です。ホタテの貝殻を鍋代わりにした郷土料理で、いつからか“貝焼き”が“かやき“になって今日にいたります。

本物の味で秋田の伝統を守り続ける
本物の味で秋田の伝統を守り続ける

――どのような方の利用が多いですか?

女将 会社の接待でのご利用が多いですね。例えば東京の本社から、社長をはじめ役員の方がいらっしゃるときに、失礼がなく、落ち着いた佇まいの店でもてなしたいといった場面での利用です。一方で、懐石料理だけでなく秋田ならではの味覚を楽しみたいという方も多いですから、「きりたんぽ鍋」をはじめ、秋田を丸ごと味わえる郷土料理コースも用意しています。ここ最近の傾向として、両家の顔合わせや結納、また、ご家族での来店も増えてきており、以前よりも裾野が広がってきているように感じます。これまで地元の方のご利用は少なかったのですが、“地元で一度は行きたい店”というある調査で、当店がランキングに入りました。ありがたいと思うと同時に、そうした方に“行きたい”から“行ってよかった”と言っていただけるようにしたいですね。

落ち着いた空間にも心が癒される
落ち着いた空間にも心が癒される

街の変化とこれからへの期待

社長 古い話になりますが、駅前に広小路という商店街がありました。当時は大変な活気がある一画だったのですが、郊外型の大型店舗が登場したことで広小路の店がそこに移ってしまいました。往時と比べたらさみしくなりましたが、しかし鉄道駅周辺が栄えないことはありませんし、社会的傾向としても、コンパクトシティの方向へと進んでいますから、佐竹さん(秋田藩・藩主)の街づくりを活かしながら「秋田」駅周辺も変わっていくだろうと期待しています。

――当時の「秋田」駅前について、思い出深いエピソードがあればぜひ聞かせてください。

社長 開発により、当時の街並みはほとんど残っていませんが、駅前にあった金座街で売っていた酒まんじゅうは好きでしたね。その隣にあった玩具屋も、幼少時代の私にとっては大変特別な場所でした(笑)。駅前ではありませんが、「千秋公園」のお堀でスケートをしたことも今となってはいい思い出です。

緑が美しい「千秋公園」
緑が美しい「千秋公園」

季節ごとの美しさと美味しいものを楽しむ日常

――秋田駅前エリアは“住む場所”として、どのように思われますか?

社長 市内では一番いいところではないかなと思います。車社会に住みながら、駅周辺で完結できる利便性があるというのは大きいですね。冬の秋田には雪かきがあるのですが、駅前だと雪解けも進むのでその必要もほとんどありませんし。

大正7年創業の趣もそのままに
大正7年創業の趣もそのままに

――最後に、秋田駅前エリアの魅力を聞かせてください。

社長 秋田全体のことから言うと、季節ごとの美しさがあり、それぞれに美味しいものがあります。春は山菜、夏になれば岩牡蠣も美味しいですし、秋には「きりたんぽ鍋」、冬は鱈(たら)や鰰(はたはた)の料理。また、秋田は伝統芸能が多い県でもあります。以前ある支店長が、“色々なところに住んできたなかで、秋田での生活が一番楽しかった”とおっしゃいました。赴任の方は、駅周辺のマンションに住まわれることが多いのですが、「秋田市民市場」が近いので、そこで刺身や野菜を調達することも日常的です。また、今の時期は蓮の花がきれいな「千秋公園」や、一番の繁華街でもある川反も近くにあります。

「千秋公園」の蓮の花
「千秋公園」の蓮の花

女将 秋田で最も好きなことは、やはり四季の移ろいが感じられることですね。季節ごとに強い個性があり、それぞれに楽しみがあります。駅前に関していえば、自然の恵み、先人から受け継いだ恵みを味わいながら、便利で快適な生活を送れるということがいいところだと思います。

社長(代表取締役)竹島 知憲さん、女将(取締役)竹島 仁子さん
社長(代表取締役)竹島 知憲さん、女将(取締役)竹島 仁子さん

料亭 濱乃家

社長(代表取締役)竹島 知憲さん
女将(取締役)竹島 仁子さん
所在地: 秋田県秋田市大町4-2-11
電話番号: 018-862-6611
URL: http://www.hamanoya.co.jp/
mail: takesima@hamanoya.co.jp
※この情報は2021(令和3)年8月時点のものです。